滑空型観測システムの気球実証実験を実施@宮崎県延岡市

ストラトビジョン(代表:河野 紘基)は新たに開発した柔軟翼(パラフォイル)を有する回収型観測装置の性能実証を行うため、2020年12月26日(土)に宮崎県延岡市においてゴム気球による放球および気球からの切り離し降下実験を実施しました。

開発した観測装置STRVSN-001は、気球によって高度5934mまで上昇したのちに気球から切り離しを行い、延岡湾海上にて、着水後11分で船舶により回収されました。

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高度5934mで気球から切り離された機体(上面カメラ)

従来の気球搭載観測装置について

従来、主に気象観測用途で使用されてきたゴム製小型気球に搭載する装置類は成層圏に到達し気圧差で破裂したのち、マッシュルーム型のパラシュートを使用して地上に降下させていました。この運用方法は装置が軽量かつシンプルで使い捨ての場合には通常問題になることはありませんが、回収目的で重量物の気球実験を実施する場合には、地上からの遠隔制御もしくは自律・能動的な制御付与によって降下地点を制御することはほぼ不可能であるために、実験エリアの気象条件に左右される航路設定、ガス充填量等によるパラメータの微調整のもとで運用を行う必要性がありました。

しかしこの手法で課題となるのは運用コストがかさむことです。気球自体のハードウェアは非常にシンプルであり低コストですが、降下地点や放球地点の変更、転換に要する調整作業の発生により実験直前まで回収人員配置の確定が難しく、さらには回収船舶の変更、連絡調整の複雑化などによりコスト高となる傾向があります。

特に島国である日本の地理的環境は気球を安全かつ効率的に回収できる場所が少なく、高コストパフォーマンスが得られる無人気球観測のメリットに対して運用調整コストが無視できなくなります。さらに予期しないパラメータの変化が運用中に発生したとしても、地上から対処することができないという観点で地上の物件に対する安全を確保しづらく、気象観測用途以外への転用障壁が根本的に高いという課題がありました。

回収型観測装置について

上記に代表される気象観測用気球、ゴム製小型気球の運用障壁を解消し、安全、高効率な無人気球運用のための技術開発を行うべく、ストラトビジョンは柔軟翼(パラフォイル)を有する回収型観測装置を新たに開発し初回の気球実験を実施しました。

パラフォイルはパラシュートと異なり降下方向を制御することが可能である一方で、布製であるためマッシュルーム型パラシュートと大差のない質量に抑えられます。これによりパラシュートと無人航空機のハイブリッド要素を併せ持つ形で巡航速度を抑えながら降下することが可能です。これは小型無人航空機で使用される回転翼機(マルチコプター)や固定翼機の移動能力、巡航速度には劣りますが、安全性を優先しパラシュートからの構造的変化が少ないパラフォイルを採用いたしました。

さらに、プロペラ動力等の推進力を有さないため、バッテリーの小型軽量化および、音響、振動ノイズの少ない観測環境を提供することが可能になります。

また通常、パラフォイルは強風下での運用が難しいという問題がありますが、低高度での降下実験や技術検討を重ねた結果、気球吊り下げ状態においてパラフォイルを展開状態で維持し飛揚させ、スムーズに切り離しを行える搬送技術を開発いたしました。

これらオリジナルの開発システムおよび構造、制御アルゴリズムは特許出願中です。

放球実験概要

観測装置型名STRVSN-001
放球日時2020年12月26日(土)12:29(JST) 放球
放球地点宮崎県延岡市速日の峰(ETOランド敷地内)
装置回収地点延岡湾海上
装置切り離し高度上空5,934m
気球到達高度上空約23,000m

実験結果

STRVSN-001は事前の航行予測に沿って、放球から17分後に高度5934mに達し、所定地点の到達をもって気球からの切り離しを行いました。切り離し時点での水平移動速度は140km/hに達しましたが、パラフォイルを破損させることなく翼展開状態のままの機体搬送を実現することができました。

切り離し後、機体は空気抵抗を受けて回転しながら水平移動速度を減じつつ安定姿勢で降下を行いました。しかし期待されたパラフォイルの理想的な形状展開には至りませんでした。機体はその後、届出海域内の海上に着水したあとも破損することなく正立状態でテレメトリー電波を送信し、着水から11分後に船舶によって回収されました。

確認された成果

  • リアルタイムでの超遠距離双方向無線通信システムの開発と動作
  • 気球搭載小型オリジナルフライトコントローラの開発と動作
  • 地上受信局モジュール兼通信中継ゾンデの開発と動作(電池含む45g / 中継機能は実装中)
  • ウェブブラウザ上で動作可能なGUI気球管制ソフトウェアの開発
  • 夏場のジェット気流風速を凌駕するシビアコンディションでの柔軟翼機体搬送技術
  • 柔軟翼機体の正常な切り離し
  • 完動状態での海上回収

今後の改善事項

  • パラフォイルの安定滑空のための迎え角調整
  • リアルタイム通信頻度の向上(現行通信周期:2Hz)

本実験は、各関係機関との調整および届出を経て法律遵守のもと実施されました。

  • 国土交通省
  • 航空局安全部 - 航空法
  • 大阪航空局宮崎空港事務所 – 自由気球の飛行通報
  • 海上保安庁日向海上保安署 – 海上交通安全法に準ずる届け出
  • 延岡市
  • 延岡市漁業協同組合 – 回収作業用船舶の調整
  • 延岡市北方総合支所 – 放球地点許可
  • 総務省九州総合通信局 – 電波法

ほか、高圧ガス保安法に準ずる高圧ボンベ管理・保安体制を含む


STRATOVISION – ストラトビジョンについて

ストラトビジョンは従来の気象観測用気球に代表されるゴム製気球のコストパフォーマンスを技術開発によって最大限に活用し、気象観測や一部の科学観測に用途が限定されてきた無人気球を、汎用的かつ安全、高効率な新たな高空観測手段に発展させるべく2020年8月に開業いたしました。今後も継続的な技術開発を進め、未踏空間「成層圏 – stratosphere」の開拓を進めてまいる所存です。

 

One Reply to “滑空型観測システムの気球実証実験を実施@宮崎県延岡市”

杉田 彰久

このプロジェクトは若い研究者が熱い思い胸に自分の青春を賭けて取り組んでおられるところが凄い。
胸を打つものがあり、きっと成功すると思います。心よりエールを送ります。

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